7月2日:新型コロナウイルスの影響に伴う外来患者減少理由・患者の症状変化に関する緊急調査結果


-県内182 医療機関で受診控えによる症状悪化を確認-

新型コロナウイルスの影響により、多くの医療機関で外来患者が減少傾向にあります。この間、外来患者減少に伴い、本来必要であった受診を手控え、症状悪化に至るケースが弊会に報告されています。

今後、新型コロナウイルスの第2波・第3波が想定される中、必要な受診を手控え、慢性疾患等の症状悪化をきたすケースが発生しないよう、注意喚起が必要です。

県内医療機関の外来患者減少状況、患者減少に伴う症状悪化の実態について調査を行いましたのでご報告致します。

【調査方法】

 実施期間: 2020年 6月 22日(月)~ 6月 26日(金)
 実施方法: 会員医療機関宛にFAXで調査用紙を送信。
  ※FAX送信数:医科診療所(778件)、歯科診療所(764件)、病院(100件)の合計1,642医療機関に送信。

 回答数:医科診療所:778 件に対し 293 件回答(37.7%)
     歯科診療所:764 件に対し 144 件回答(18.8%)
     病   院:100 件に対し 23 件回答(23.0%)
     全   体:1,642 件に対し 460 件回答(28.0%)

【調査結果】

設問A:この間、新型コロナウイルスの影響による外来患者の受診減少はありましたか。

(1)あり
(2)なし
(3)その他

受診減少のあった件数
医科診療所270/293(92.2%)
歯科診療所141/144(97.9%)
病院21/23(91.3%)
全体432/460(92.0%)
  • 医科歯科問わず、9 割以上の医療機関が新型コロナウイルスの影響によって外来患者が減少したという認識を持っている(※下記は、外来患者減少理由詳細)。
  • 医科診療所では、『感染リスクを恐れ患者自ら受診を手控えたこと』を一番大きな患者減少理由としてあげている。
  • 2 番目には、『長期処方によって受診間隔をのばしたこと』があげられた。感染リスクを考えた対処法であり、患者側から希望されるケースと、医療者側から長期処方が可能である場合にその対応をとったケースとがある。
  • 歯科診療所でも医科診療所同様、『感染リスクを恐れ患者自ら受診を手控えたこと』が一番大きな患者減少理由としてあげられている。
  • 2 番目には『感染対策のための外来受け入れ制限』があげられた。歯科診療所では飛沫等の感染対策として、同じ時間帯に受け入れる患者人数を制限したり、診療後の消毒・換気を十分行った後、次の患者を受け入れるなどの感染対策を行っている。これらの対策は、必然的に外来患者数が減少することにつながる。
    • 歯科における感染対策としては、歯を削った際のエアロゾルや粉じんを吸引する口腔外バキュームを導入する医療機関も増えている。その他、歯科治療器具の滅菌や院内感染防止対策等が条件の「歯科初診料・注1」という施設基準は約95%の医療機関が条件を満たし、厚生局に届出を行っている状況である。なお、今回の新型コロナウイルス感染拡大時において、歯科治療に関する院内感染は発生していない。)
  • 病院における外来患者減少の大きな理由は、医科診療所と同様の理由により外来患者が減少している。

設問B:設問Aで外来患者の受診減少があった場合、その後の患者来院時に症状悪化を確認したケース、また、継続受診等が必要にもかかわらず、新型コロナウイルスの影響でその後も来院がなく症状の悪化が懸念されるケースはありますか。ウイルスの影響による外来患者の受診減少はありましたか。

(1)あり
(2)なし
(3)その他

症状悪化等を確認したケース
医科診療所101/270(37.4%)
歯科診療所78/141(55.3%)
病院3/21(14.3%)
全体182/431(42.2%)
  • 新型コロナウイルスの影響に伴う受診控え等により、全体では182(42.2%)の医療機関で、患者の症状悪化が確認された。医科診療所は101 医療機関(37.5%)、歯科診療所では78 医療機関(55.3%)で症状悪化がみられた。
  • 調査用紙には患者症状悪化の具体的内容を記載する部分があり、その記載内容から、症状悪化事例の多くは『患者による任意の受診中断・服薬の中止』が原因であると考えられる。
  • 症状悪化事例詳細は後述するが、今回の調査で最も悪化事例の多かった「糖尿病」を例にあげると、経口薬のみの投与でコントロールされていた患者が、受診中断等により症状悪化をきたせば、将来的には、インスリン使用しなければならない状況となったり、糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症などの合併症を引き起こす可能性がある。このようなケースでは、健康状態の悪化のみならず、医療費の負担も大きくなることが想定される。
  • 医療機関では新型コロナウイルス感染が拡大した時期においても、必要な受診がしっかりできるよう、院内感染対策として、動線の確保や消毒、発熱患者等の受診の際の対策を行っている。目に見える症状が無い場合でも既に症状が悪化しているケースも少なくない。必要な受診を手控えることのないよう、受診に関して主治医の先生としっかり相談をすることが求められる。

◇調査で寄せられた症状悪化の主な内容・医科(※カッコ内は医療機関数)

  • 糖尿病血糖コントロール不良や合併症の重症化(37)
  • 高血圧症血圧コントロール不良(26)
  • 心不全増悪(6)
  • リハビリ等を行わないことによるフレイルの増悪(6)
  • 緑内障眼圧コントロール不良(3)
  • 認知症症状悪化(3)
    • カッコ内の数字は医療機関数であり、患者数ではない。一つの医療機関で、同じ症状による複数患者の症状悪化を確認しているケースもある。
    • 症状悪化の具体例として、糖尿病患者では、新型コロナウイルスによる受診控えで3 ヶ月受診しない期間があり、2 月は血糖値:118、HbA1c:5.8 だったが、6 月受診時には血糖値:562、HbA1c:13.7 となり緊急入院となるケースがあった。その他にも2 ヶ月受診がなく、HbA1c:6.9→11.7 に上昇したケースもあった。また、高血圧症患者では、服薬を自己判断で中断していたため、来院時の収縮期血圧が200 近いケース(脳出血のリスクあり)が報告されている。慢性疾患において、投薬を自己判断で減薬、中断するケースが目立っている。その他、がん疑いの精査が先送りとなるケースも4 件あった。

◇調査で寄せられた症状悪化の主な内容・歯科(※カッコ内は医療機関数)

  • 歯周病治療中断による症状悪化(29)
  • 根尖性歯周炎治療中断による症状悪化(15) ※根尖性歯周炎とは“歯の根の炎症”
  • う蝕治療中断による症状悪化(14)
  • 義歯作製や修理の中断(6)
    • う蝕治療の中断から歯髄(歯の中の神経等)が炎症を起こし、抜髄となるケースが多数報告されている。
    • 義歯は痛みがある場合など修理が必要となるが、修理をせず、痛みを回避するため装着しないでいると、形が合わなくなる。また、合わない義歯を調整しないで使い続けて、噛み合わせの反対側の歯を痛めてしまったケースも報告されている。
    • 歯周病治療を中断する歯肉の炎症が急速に進んだり、歯周病菌の増殖で肺炎の危険性や感染症の重症化リスクが高まるとされている。

【茨城県保険医協会からの提言】

新型コロナウイルス感染症の第2 波・第3 波が仮に到来したとしても、慢性疾患の定期受診など、必要な診療を受けることはとても重要です。“医療機関に行く=新型コロナウイルスに感染する”という風潮のもと、「今は症状が出ていないから・・・」「少しくらい先延ばしにしても・・・」など、自己判断することはとても危険です。

医療機関では、これまで新型コロナウイルス感染症が流行した時期においても、これまでどおり十分な医療が提供できるよう、感染防止対策に取り組んできました。

自己判断で受診を手控えることによって、慢性疾患の症状悪化や免疫力低下によりウイルスに対抗できない状態になってしまうことがあります。

病気に関して不安なこと、わからないことがあれば、まずは主治医の先生に相談をしてください。

※今回の医療機関患者減少による影響(慢性疾患等の症状悪化)は出始めたばかりであり、継続的な受診控えが続けば、症状悪化事例は今後も増加することが想定されます。