新型コロナウイルス関連調査「受診抑制の影響に伴う患者の症状変化(第2報)」、「今冬の発熱患者等への対応方法」


-受診控えによる症状悪化5 割超、前回調査から増加-
-発熱患者対応、“かかりつけ患者”と“新患”に有意差-

今年6月末に行った新型コロナウイルス影響調査では、今春より多くの医療機関で外来患者の受診減少傾向が進んでいること、受診控えによる患者の症状悪化事例を確認した医療機関が4割超であることを確認しました。

インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行に対する警戒感が高まる中、受診控えや患者症状悪化の状況がどのように変化しているかについて、この度、2回目の調査を行いました。

また、厚生労働省や県が中心となり「インフルエンザ流行に備えた体制整備」が行われているところですが、発熱患者等に地域で対応する医療機関が、『相談』『診察』『検査』にどこまで対応しようとしているのか、この点についても併せて調査を行いました。

受診抑制の影響に伴う患者の症状変化(第2報)

【調査方法】

 実施期間: 2020年 10月 2日(金)~ 10月 9日(金)
 実施方法: 会員医療機関宛にFAXで調査用紙を送信。
  ※FAX送信数:医科診療所(729件)、歯科診療所(872件)の合計1,601医療機関に送信。

 回答数:医科診療所:729件に対し 143件回答(19.6%)
     歯科診療所:872件に対し 91件回答(10.4%)
     病   院:100 件に対し 23 件回答(23.0%)
     全   体:1,601 件に対し 234件回答(14.6%)

【調査結果】

設問A:前回調査(6 月末実施)では、9 割超の医療機関で「新型コロナウイルスの影響により外来患者が減少した」と回答しました。7 月以降、外来患者の受診状況はどのように変化したと感じていますか。

回答選択肢:
(1)受診減少傾向が 進んだ
(2)受診減少傾向は 続いている
(3)受診減少傾向は 改善した
(4)受診状況は 増加に転じた

設問【A-1】今年3 月~6 月と比較して、
    ・7 月は【(1)・(2)・(3)・(4)】と感じている。
    ・8 月は【(1)・(2)・(3)・(4)】と感じている。
    ・9 月は【(1)・(2)・(3)・(4)】と感じている。

設問【A-2】前年同期比と比較して、
    ・7 月は【(1)・(2)・(3)・(4)】と感じている。
    ・8 月は【(1)・(2)・(3)・(4)】と感じている。
    ・9 月は【(1)・(2)・(3)・(4)】と感じている。

設問【A-1】結果

新型コロナウイルスの第1波が到来した今春(3 月~6 月)と比較した場合、依然として受診減少傾向が続いている医療機関が多いものの、7 月から9 月にかけて緩やかに受診減少傾向が改善しました。
茨城版コロナNext が9 月8 日に「Stage2」に緩和されたこと、医療提供者側・医療を受ける側ともに感染対策が進んでいること等から、受診動向に一時的な変化が現れたと考えられます。

設問【A-2】結果

一方、昨年同期(平時)との比較では、4 割の医療機関が7 月から9 月にかけて受診減少が進んでいると回答しました。また、3 割強の医療機関では、受診減少傾向が改善されないと回答しています。
受診抑制傾向が長期間に及ぶと、慢性疾患患者の深刻な状態悪化が懸念されます。
また、医療経営の視点に立つと、医療機関にとって減収の直接的な補填措置はなく、経営状況は更に厳しいものとなることが想定されます。
(※下表7~9 は、7 月・8 月・9 月の各月において、今春と昨年同期の受診状況を比較)

表7~9 は、表1~表6 を7 月・8 月・9 月の月ごとに比較したものです。青いライン(今年3 月~6 月比較)では、「受診減少傾向は改善」の比率が月を追うごとに上昇しています。前述のとおり、今春(3 月~6 月)と7~9 月の各月状況を比較した場合、各種情報や感染対策等により、患者側の意識として“感染リスクが低下している”と考え、受診動向が一時的に上向いた可能性があります。
赤いライン(昨年同期比較)は7 月~9 月の3 ヶ月間、似た形状であり、平時と比較した場合、受診減少傾向が持続または進行していることを示しており、適切な受診があれば回避できる慢性疾患患者等の症状悪化増加が懸念されます。

設問B:設問【A―1】・【A―2】で「受診減少傾向が進んだ」もしくは「受診減少傾向は続いている」と回答した場合、その後の患者来院時に症状悪化を確認したケースはありましたか。また、継続療養等が必要にもかかわらず、新型コロナウイルスの影響でその後も来院がなく、症状の悪化が懸念されるケースはありますか。

回答選択肢:
(1)有
(2)無

設問B 結果
※表10 は、前回調査(6 月下旬)と今回調査の「症状悪化事例(有)医療機関」の割合を比較したもの。

前回調査で症状悪化事例を確認した医療機関は4 割超でしたが、今回は5 割を超える医療機関で症状悪化事例が確認されました。受診控えの長期化によって、「受診が必要な患者の症状悪化」は確実に進行していると考えられます。
表4~9 でも明らかなように、今年7~9 月の受診状況について昨年同期と比較した場合、受診減少傾向が進んでおり、その結果と比例するように症状悪化事例を確認する医療機関も増えています。
悪化事例の内容は後述しますが、その多くは前回同様“慢性疾患”であり、医科では糖尿病や高血圧、歯科では歯周病の症状悪化が目立ちます。
医科の悪化事例の中には「慢性心不全で2 月より受診中断、9 月に重症心不全で入院」、「糖尿病患者で片眼視力低下を自覚していたが受診を控え9 月に再受診した時には両眼ともに進行した糖尿病性網膜症に」、「内視鏡検査を遅らせた為、癌が進行した状態で発見」など深刻な状態となっている事例もありました。

症状悪化事例・主な内容

(医科)

  • 糖尿病患者は14or28 日間隔で来院をお願いしているが、その間隔が長くなり病態の悪化懸念。
  • 糖尿病患者(HbA1c の悪化等)。
  • 糖尿病の患者が来院しなくなった。現在の状況不明。
  • 糖尿病患者。4 月頃から片眼視力低下を自覚していたが受診を控える。9 月になり、もう片眼が見づらくなり受診。両眼ともかなり進行した糖尿病性網膜症となった。
  • 糖尿病性網膜症の進行。
  • 血糖コントロールの悪化。
  • 糖尿病の悪化。脳梗塞・心筋梗塞予防の薬を服用しない。
  • 高血圧の患者、血圧上昇の可能性。
  • 血圧上昇(服薬不規則なため)。
  • 降圧剤服用せず、血圧上昇。
  • 高血圧の方でしばらく来院せず。血圧上昇で来院となる。
  • 血圧が200 を超え、頭痛等で再来院となる患者が複数いる。
  • 血圧、コレステロールの薬を数ヶ月服用せず。症状悪化後に来院。
  • 高齢者で高血圧、心房細動あり。抗凝固剤の服薬中断により脳梗塞発症。
  • うっ血性心不全進行。
  • 心臓病の患者、心臓発作の起こる可能性。
  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症などで症状の落ち着いている方が間隔を空けての来院。来院時に以前の状態に戻っていた。軽度心不全の悪化が特に気がかり。
  • 拡張型心筋症、慢性心房細動、慢性心不全、糖尿病のある方(高齢男性)。今年の2 月より受診無し。9 月、呼吸困難でA病院に重症心不全で入院。
  • 高脂血症の悪化。
  • 前立腺肥大症の投薬を自己中止。
  • 抗がん剤終了後。倦怠感と発熱ある時期に受診せず。1 ヶ月近く自宅で様子をみる。
  • 気道感染症、受診を控え、悪化してからの受診。
  • 内視鏡検査を遅らせた為、癌が進行した状態で発見された。
  • 内視鏡検査の拒否。
  • 骨粗鬆症の症状悪化。
  • 新規脆弱性骨折の発生。
  • 緑内障の点眼薬が切れた状態で数ヶ月経過。点眼回数を自主的に減少させ、体調不良となり受診されるケースあり。
  • 認知症の進行(通所サービス中断のため)。
  • 外耳炎が悪化。外耳道閉鎖し、鼓膜までみえなくなる症例あり。
  • ADL 低下。

(歯科)

  • 歯周病、う蝕の進行。
  • 新たなう蝕の増加。半年で一気に増加している。
  • 根面カリエス進行し、歯牙破折。
  • 根治の中断により、根尖性歯周炎に。
  • 保存可能な歯が歯周病進行のため抜歯となる。
  • 歯周病の増悪による予約外の来院が増加。
  • 歯周病、歯周炎の悪化。特に小中学生のステイホームの影響か、プラークの付着部位・量の増加が著しい。
  • 歯周病の急発症状が増える。
  • 歯周病のメインテナンスで来院しなくなる。急性症状で来院するケースが増加。
  • これまで軽症のうちに受診していた方が、歯髄炎や根尖性歯周炎の状態となって受診している。
  • 麻抜の増加。
  • 4 ヶ月放置したため、義歯不適合となる。
  • 受診控えのため、状態悪化。歯牙の脱落に至る。
  • 糖尿病患者や抗がん剤治療中の患者。口腔ケア中に来院しなくなるケースあり。
  • 受診を控えることで、抜髄や補綴物の脱離などの治療が必要な患者が増加した。
  • 補綴物が脱離しても放置しているケースが増えている。

今冬の発熱患者等への対応方法

【調査方法】

(※新型コロナ・インフルエンザ同時流行に備えた体制整備に関する調査)

 実施期間: 2020年 10月 2日(金)~ 10月 9日(金)
 実施方法: 会員医療機関宛にFAXで調査用紙を送信。
  ※FAX送信数:医科診療所(729件)に送信。

 回答数:医科診療所:729件に対し 143件回答(19.6%)

【調査結果】

設問C:厚労省では、新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行に備え、10 月中を目途に地域での診療・検査体制を整えるとしています。県内でも発熱患者等への対応を行う医療機関の上積みが必要となりますが、同時流行に備えた発熱患者等への診療・検査体制について、どのように対応されますか。

回答選択肢:
(1)対応しない
(2)電話相談のみ
(3)診察をする
(4)診察・検査をする

設問【C―1】発熱等患者〔かかりつけ患者〕に対しては、【(1)・(2)・(3)・(4)】。

設問【C―2】発熱等患者〔新患〕に対しては、【(1)・(2)・(3)・(4)】)。

設問B 結果

今冬の発熱患者等対応について、「患者対応の可否」、「“かかりつけ患者”と“かかりつけではない新患”で対応が分かれるか」、2 点の調査を行いました。
その結果、かかりつけ患者・新患問わず、「発熱患者等に対して診察をする」と回答した医療機関は一定割合ありましたが、「検査まで含めて対応する」医療機関の割合はそれぞれ減少しました(※新型コロナウイルスの院内感染が発生した場合、医院を一定期間閉鎖しなければならない可能性が高く、地域医療を継続的に提供するため、検査を行わない選択をする医療機関も少なくないと考えらます)。
発熱患者等に対して「対応しない」と回答した医療機関の割合は、“かかりつけ患者”と“新患”を比較した場合、新患に対応しない医療機関の割合が高い結果となりました。発熱患者等(新患)に対応する医療機関が少ないことへの対応は急を要します。
地域医療を崩壊させないため、診療・検査体制の充実は必要であり、また、多くの医療機関が協力しやすい制度設計・環境整備が望まれます(※マンパワーなどの問題も多いですが、各市町村レベルに医療資源を集約したインフルエンザや新型コロナウイルスに関する検査が可能な施設を設けることの検討も必要です)。
厚生労働省は診療・検査を行う医療機関に補助を設けますが、地方独自で診療・検査体制を整備するための促進事業なども必要です。埼玉県では、「診療・検査医療機関」指定促進事業とし、体制整備のための協力金、1 医療機関あたり50 万円の補助を設けています。また、発熱患者等対応ということでは、“医療従事者”の感染リスクに対する補償も必要となります。