今冬の新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療機関への影響調査結果(医科)


発熱外来等を設置し、第一線で診療・検査を行う診療所や中小病院には感染リスクに対する支援が必要

感染症に積極対応する医療機関では医療用手袋がひっ迫

新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、発熱患者等の医療提供体制が整備されつつありますが、当会には県内医療機関から“今冬の診療における困りごと”について様々な声が寄せられています。
今回、県内医療機関が“今”抱えている問題点について調査を行いましたのでご報告致します。なお、今回明確となった困りごとを基に、関係各所に要請を行う予定です。

【調査方法】

 実施期間: 2020年 12月 25日(金)~ 2021年 1月 6日(水)
 実施方法: 会員医療機関宛にFAXで調査用紙を送信。
  ※FAX送信数:医科診療所(776件)

 回答数:医科診療所:776件に対し 182件回答(23%)

【調査結果】

設問A:発熱患者等への受診体制構築など感染症に対する体制整備が進んでいますが、今冬の診療に関して、医療機関として困っていることや新型コロナウイルス感染症対応について望むことはありますか。

回答選択肢:
(1)ある: 156 件(86%)
(2)ない: 26 件(14%)

当会に所属する医療機関の多くは中小病院や診療所。平時に求められている医療に加え、例年以上の感染症対策、新型コロナに対する検査や診療対応などを求められており、多くの医療機関が何らかの困りごとを抱えている。

設問B:設問Aで「困りごとがある」と回答した場合、それはどのような困りごとですか。
(※複数回答。下記の各設問直下の数字は設問Aにて「困りごとがある医療機関(156件)」に占める回答数。)

回答選択肢(回答数):

  • 発熱患者等が受診する際、事前に電話などの連絡なしに来院するケースがある。(108件)
  • 診察により新型コロナ陽性者や疑い患者が発生した場合、その後の患者処遇について保健所等との円滑な連絡体制(ex.夕方や夜間の連絡など)が確保されていない。(38件)
  • 新型コロナウイルス感染症に関して、必要な情報(ex.クラスター発生要因、具体的対応策など)が十分に入ってこない。(74件)
  • 感染症対応の影響等で、スタッフの疲弊度が高まっている。(63件)
  • 感染症対応の影響等で、スタッフの休職や離職等が発生している。(21件)
  • 新型コロナウイルス感染症に関連して、現在も医療機関やスタッフ、その家族等に対する誹謗中傷が起きている。(3件)
  • 個人用防護具や衛生材料が不足している。(47件)
  • その他に困っていることがある。(38件)
◆発熱、倦怠感、せきなどの症状がある場合は、医院への事前連絡は必須院内感染を引き起こす可能性も

設問Bでは、「発熱患者等が事前連絡なしに来院する」ことを今冬に経験し困っている医療機関が約70%という結果となった。
新型コロナウイルス感染症による院内感染を避けるため、昨秋より地域の医療機関では“発熱外来”が設けられた。発熱や倦怠感、せきなどの風邪症状を有する患者は通常外来ではなく、電話連絡をしたうえでの発熱外来受診が必須となる。
発熱外来では患者から連絡が入ると、来院時間を指定する。それにより診療体制の準備(防護服の着用等)や感染対策を行ったうえで該当患者に診療を行うことができる。見えない敵と戦うためには避けては通れない部分となる。

医療機関には症状があっても直接来院するケースがあり、説明をしてもなかなか理解してもらえないという。受診後に、『昨日は発熱していたが、今日は解熱しているから受診した』、『市販薬の服薬により解熱している』といったことを伝えるケースもあるという。

各地域では多くの医療機関が発熱患者等の診療・検査に協力しており、新型コロナウイルス感染者の入院医療を行う医療機関の負担を軽減する役割も担っている。施設内感染のリスクは常にあり、そのリスクを減らすための事前連絡というルールが守られず、院内感染を引き起こし、患者や職員への感染が広がれば地域医療にも大きな影響を与えることになる。

県や各市町村でもホームページや広報誌等を用いて周知を行っているが、“医療機関への電話連絡”が浸透していないように感じられる。さらなる周知が必要になるとともに、地域住民の方々にも発熱等の症状がある場合、“受診前の事前連絡”にご協力を頂き、感染拡大を防ぐことが必要となる。

◆第一線で発熱等患者の診療・検査にあたる医療機関は、地域で発生したクラスター等の詳細情報が必要

「クラスター発生等の必要な情報共有がされていない」ことに困っている医療機関は約50%となった。『近隣で発生したクラスターの情報がオンタイムで入ってこない』、『クラスター発生情報を地元医療機関に知らせて欲しい。発熱外来診療での参考にしたい』、『近隣の学校で陽性者が出た後、濃厚接触者に行ったPCR 検査で何名陽性者がいたのか、情報が入ってこない』といった声があげられている。

◆積極的に発熱患者等の診察・検査を行う医療機関はグローブなどの衛生材料がひっ迫している

個人用防護具や衛生材料の不足を訴える医療機関も少なくない。新型コロナウイルス感染症の入院医療を担う医療機関では、『プラスチックグローブが40 万枚不足している』という。
全般的にプラスチックグローブとN95 マスクの不足を訴える医療機関が多い状況だ。地域で新型コロナウイルス疑い患者の検査を行う診療・検査医療機関では、感染予防のため消毒の頻度が増加。消毒剤がひっ迫しているという。

これらの衛生材料等は価格の高騰、品薄と厳しい状況にある。医療用プラスチック手袋・ニトリル手袋は価格の高騰が続いている。昨年1 月から今年1 月にかけて、プラスチック手袋は5 倍、ニトリル手袋は3~4 倍に価格が高騰。手袋は主にマレーシア、インドネシア、タイなどで生産されるが、新型コロナウイルス感染症の影響で工場が停止するなど生産が追い付かない状況。価格高騰と品薄状態につながっている。

※表中の価格は衛生材料メーカーに確認(表中の価格は卸値)

設問C:設問Aで「感染症対策について望むことがある」と回答した場合、それはどのような内容ですか。
(※複数回答。下記の各設問直下の数字は設問Aにて「困りごとがある医療機関(156件)」に占める回答数。)

  • 感染の危険と隣り合わせで職務にあたる医療従事者への危険手当制度。(100件)
  • 医療従事者が院内感染した際の休業補償制度。(123件)
  • 診療・検査医療機関の拡充。(58件)
  • 発熱患者等の受診は個々の医療機関による対応ではなく、医療資源を集約し各地域で発熱外来を増設する。(74件)
  • その他(18件)
◆感染リスクに伴う補償が求められている

設問Cでは医療従事者の「危険手当(64%)」「感染時休業補償(79%)」の2 点について高い割合を示す結果となった。この間、医療機関に対する支援は、医療従事者に対する慰労金や院内感染防止対策費用の補助などが中心であり、“感染リスクに伴う補償”はなかった。
医療機関は“症状のある方”が受診する。念入りに感染防止対策を講じても100%感染を防ぐことは難しい。病院・診療所問わず、この間、医療機関でのクラスターが各地で発生している。感染発生により休診期間が長期化すれば医院経営にも大きな影響をもたらす。

地域の診療所や中小病院が発熱外来を設け「診療・検査医療機関」として新型コロナウイルス感染症疑い患者を診るケースが増えているが、多くの医療機関が“感染リスクに対する補償”を望んでいる。

他県の事例ではあるが、鹿児島県では「診療・検査医療機関」の医療従事者に対して、1 日あたり4,000 円の危険手当を制度として設けた。また、鳥取県では「診療・検査医療機関」において院内感染が発生し休業した場合、最大300 万円の休業補償を支給する制度を設けている。

鹿児島県の危険手当制度は「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」が活用されたものであり、三次補正予算でも当該交付金が盛り込まれる予定となっている。当会では茨城県に対して、当該交付金を活用した医療機関への“感染リスク”に対する財政的支援を求めていく。