新型コロナによる自宅療養者への対応アンケート・医療機関への調査結果
「軽症」対応は、急変時の搬送先確保が必須
「中等症」自宅療養での適切な医療提供に懸念
新型コロナウイルス感染症は変異株の影響等により第5波では感染者が急増、7月には100人程度であった県内の自宅療養者数が8月には1,500人を超える事態となりました。病床逼迫に伴う国の方針転換は、自宅療養となる軽症・中等症患者が容態急変により命を落とす危険性をはらんでいます。病院の統廃合により病床を削減してきたこれまでの方針を転換することは必須ですが、現時点において、自宅療養者数の急増に対応するためには、自宅療養者に対する明確な対応方針を構築する必要があります。適切な対応が出来ない場合、家庭内での感染拡大や在宅死を招くことは明白です。
現在、感染状況は落ち着いていますが、第6波への備えとして、パンデミック時の病床確保、さらには自宅療養者等に対するきめの細かい対応が求められます。
厚生労働省は各都道府県に対し、保健・医療提供体制確保計画を新たに作成するよう求めています。今夏の感染拡大を踏まえた体制整備が必要であり、地域で対応する医師の率直な意見を抜きにして体制整備は成り立ちません。
今回、地域の医療機関に、自宅療養者への対応について重視する内容や新型コロナ対応に奮闘する医療機関の現状を調査しました。その結果を報告致します。
【調査方法】
実施期間: 2021年 9月 27日(月)~ 10月 6日(水)
実施方法: 当会に所属する医師の会員医療機関宛(診療所)にFAXで調査用紙を送信。
※FAX送信数:医科診療所(769件)
回答数:医科診療所:769件に対し 148件 回答(19.2%)
【調査結果】
設問1:新型コロナウイルス感染症自宅療養者(※軽症:発熱・せき等を伴う状態)への対応は可能ですか?
(1)可能
(2)かかりつけ患者のみ可能
(3)不可能
(1)可能 | (2)かかりつけ患者のみ可能 | (3)不可能 |
14.2%(21/148) | 34.5%(51/148) | 51.3%(76/148) |
※設問1で「可能」・「かかりつけ患者のみ可能」である場合の対応方法(複数回答)
電話応対 | 往診 | オンライン診療 | |
「可能」+「かかりつけ患者のみ可能」合計 | 93.1%(67/72) | 33.3%(24/72) | 13.9%(10/72) |
可能 | 95.2%(20/21) | 52.4%(11/21) | 19.0%(4/21) |
かかりつけ患者のみ可能 | 92.2%(47/51) | 25.5%(13/51) | 11.8%(6/51) |
設問2:新型コロナウイルス感染症自宅療養者(※中等症:肺炎を伴う状態)への対応は可能ですか?
(1)可能
(2)かかりつけ患者のみ可能
(3)不可能
(1)可能 | (2)かかりつけ患者のみ可能 | (3)不可能 |
6.1%(9/147) | 7.5%(11/147) | 86.4%(127/147) |
※設問2で「可能」・「かかりつけ患者のみ可能」である場合の対応方法(複数回答)
電話応対 | 往診 | オンライン診療 | |
「可能」+「かかりつけ患者のみ可能」合計 | 95.0%(19/20) | 70.0%(14/20) | 20.0%(4/20) |
可能 | 88.9%(8/9) | 77.8%(7/9) | 22.2%(2/9) |
かかりつけ患者のみ可能 | 100%(11/11) | 63.6%(7/11) | 18.2%(2/11) |

新型コロナウイルス感染症・自宅療養者への対応について、「軽症」では約50%の医療機関が、「中等症」では約90%の医療機関が対応不可能と回答しました。地域の診療所での医師数は多くが1人体制です。日常診療やワクチン接種などの新型コロナウイルス対応と並行しながら感染者の管理をすることとなれば、容体急変時の迅速な対応などが難しくなるケースが想定されます。これらのことから対応不可能とする回答が多くなっていると考えられます。
その一方、「軽症」については、『対応可能』・『かかりつけ患者であれば対応可能』と回答した医療機関が約半数を占めました。軽症者の中でも特にかかりつけ患者の場合、既往歴などを把握していることから、症状が比較的軽い場合は継続して診療を行えると判断する医療機関が一定数あると捉えること
ができます。
現在、発熱外来でPCR 検査等により新型コロナウイルス陽性が確認されると、当該医療機関は保健所に発生届を提出、その後の患者療養先等の判断は保健所に委ねられます(地域の医療機関では、患者の療養先などを把握できません)。軽症者については、保健所が地域の医療機関・市町村と情報を共有することで、かかりつけ医などによる対応がスムーズに行われるケースが増えると考えられます。
なお、中等症患者について“自宅療養での対応は不可能”と多くの医療機関が回答したことは、“自宅療養では適切な医療が受けられない”ことを示唆しており、パンデミック時における中等症以上の受け入れ先体制確保は急務となります。

自宅療養者への対応が可能である場合、その対応方法として電話対応が主になると回答する医療機関が多い結果となりました。“日常診療や新型コロナウイルス対応と並行しながらの感染者管理”は、時間的制約もあることから電話対応が主になると想定されます。
設問3:自院での新型コロナウイルス感染症に係る対応(複数回答)
(1)ワクチン接種
(2)発熱外来
(3)検査対応
(4)メディカルチェック
(1)ワクチン接種 | (2)発熱外来 | (3)検査対応 | (4)メディカルチェック |
79.2%(114/144) | 52.1%(75/144) | 46.5%(67/144) | 16.0%(23/144) |
※設問1で自宅療養者(軽症者)への対応が「可能」・「かかりつけ患者のみ可能」と回答した医療機関を抽出した場合の設問3の回答結果(複数回答)
(1)ワクチン接種 | (2)発熱外来 | (3)検査対応 | (4)メディカルチェック |
95.8%(68/71) | 70.4%(50/71) | 63.4%(45/71) | 26.8%(19/71) |

新型コロナへの対応として、特にワクチン接種は地域の医療機関で積極的に取り組まれていることがわかります。
回答した医療機関全体と自宅療養者(軽症者)への対応が可能とした医療機関の新型コロナ対応状況を比較すると、自宅療養者への対応が可能とした医療機関ほど積極的に各種対応を行っていることが見て取れます。
地域では多くの診療所で医師は1人体制となります。人的余裕がない中でも各種事業に対応し、疲弊
している状況が慢性的に続いています。
設問4:自宅療養者への対応は、どのような部分が改善されれば今までより協力が可能ですか?(複数回答)
(1)入院等の明確な判断基準
(2)容体急変時の搬送先確保
(3)自宅療養者への具体的な対応方法
(4)往診時のPPE 着脱方法
(5)3 者間【県(保健所)・市町村担当部署・医療機関】における自宅療養者の情報共有
(6)医療機関に対する自宅療養者・詳細情報の迅速な提供
(7)自宅療養者に対応する医療従事者の感染時補償
(1)入院等の明確な判断基準 | (2)急変時の搬送先確保 | (3)自宅療養者への対応方法 | (4)往診時のPPE 着脱方法 | (5)3 者間での情報共有 | (6)医療機関に対する詳細情報の提供 | (7)感染時補償 |
36.1% (52/144) | 61.1% (88/144) | 37.5% (54/144) | 9.7% (14/144) | 23.6% (34/144) | 9.0% (13/144) | 24.3% (35/144) |
※設問1で自宅療養者(軽症者)への対応が「可能」・「かかりつけ患者のみ可能」と回答した医療機関を抽出した場合の設問3の回答結果(複数回答)
(1)入院等の明確な判断基準 | (2)急変時の搬送先確保 | (3)自宅療養者への対応方法 | (4)往診時のPPE 着脱方法 | (5)3 者間での情報共有 | (6)医療機関に対する詳細情報の提供 | (7)感染時補償 |
47.9% (34/71) | 83.1% (59/71) | 45.1% (32/71) | 14.1% (10/71) | 38.0% (27/71) | 15.5% (11/71) | 33.8% (24/71) |

自宅療養者に対応するため改善が必要な部分としては、「急変時の搬送先確保」が最も高い割合を占めました。感染者の容体が急変した場合、速やかに必要な医療へつなぐ必要があるため、多くの医療機関が急変時の搬送先確保を求めていることが明らかになりました。
その他、注視すべき点として、3 者間(保健所・市町村担当部署・医療機関)での自宅療養者の情報共有があります。第5 波のようなパンデミック時には、県・保健所主体で自宅療養者の管理をすることはマンパワー的にも非常に難しい状況があります。患者急変等に迅速に対応するためにも、市町村や地域の医療機関が県・保健所とともに自宅療養者の情報をリアルタイムで共有する必要があると考えられます。
設問5:新型コロナウイルス感染症に対する全般的対応について、現場での問題点(自由記述)
- 【自宅療養ではなく、入院・施設等での療養を推進する意見】
- 自宅療養よりも臨時医療施設の設置を優先するべき。
- 自宅療養そのものが不可。観察施設の設置が必要。
- コロナ病床満床時の中間病棟(野戦病院)の設置。
- 感染専門施設で対応しほしい。一般のクリニックでは通常の業務で手一杯。
- そもそも自宅療養は医療とは言えないため、自宅療養者を減らす方向に進むべき。せめて宿泊療養であれば協力しやすくなる。
- 陽性患者は病状の進行が考えられる。それを在宅で診るのは感染リスクが高すぎる。しかも在宅では確実な病状把握ができない。野戦病院形式でも入院し治療することで、双方のリスクが低くなると考える。
- 自宅療養対応より宿泊所対応をメインでした方が協力しやすい。
- それぞれのクリニックでコロナの対応をすることは危ないと思う。対応する施設を決めていただいて応援する形なら協力できる。PM を休診にして対応する施設で外来を行う、回診を行うなど。
- 新型コロナウイルス感染症患者の状態が悪化する要因が不明のため、容態の観察には24時間いつでも対応できる体制が必要。自宅療養患者の対応を1 人で24時間行うことは困難であり、日常業務を同時に行うことも困難となる。
- 夜間や休診時の対応ができないので、コロナ感染者のfollow up はなかなかできないと思われる。
- やはり自宅療養者のフォローアップ体制が最も脆弱と考える。
- 「在宅死」はあまりにも痛ましい。せめて施設収容を。当院は非協力的だが、全国から来院するCKD 患者への対応でやむを得ないと思っている。
- 入院先が無く、なしくずし的に重症患者を在宅で診なければならなくなることに対する恐怖がある。
- 【陽性患者への対応に関する意見】
- 流行当初から全ての事に協力している。発熱外来も含め、手をあげていない医療機関が多く、自分達の業務負担が多い。不公平感が強く、今回の自宅療養者の対応は見送っている。ワクチンを早々に打った医療機関が発熱外来を行わないのは???
- 高齢で持病がある為、自宅療養者への対応はできていない。(医師高齢化による)
- 新型コロナウイルス感染症自宅療養者に電話診療したとしても、処方箋などのやり取りはどうするのか。事務スタッフの感染リスクも高くなるなど考えると困難でハードルが高い。
- 診療科(眼科)の特性として、普段から発熱や呼吸器症状の治療はしないので対応できない。その分、集団接種会場の手伝いに積極的に行っている。
- 耳鼻咽喉科なので、本来は軽症の自宅療養者までは対応できるかもしれないが、現状、往診しか手段がなく、看護師等の協力もワクチン接種だけで限界の状況。
- 【陽性患者の情報共有に関する意見】
- 陽性者を保健所へ通知するが、その後の保健所での対応はどうしたのか、通知がない。FAX でよいので通知いただけると助かる。
- コロナ感染症の発生状況について、具体的な情報を出してもらいたい。ネット情報や地域の口コミ以外詳しいことを知る方法がない。
- 発生届提出後の情報がない(入院、自宅療養など)。地域の具体的な発生状況が不明(場所など)。
- 当院で対応できるのはせいぜい小児~学童に限られる。小児は一般に軽症の場合、自宅療養で経過をみることになっている。家庭内感染が多いということは両親のいずれかも感染しているわけで、親の病状によって、子どもの福祉上の問題が難しくなる恐れあり。3 者間の連携が重要と思います。
- 現在のところ、H市では新型コロナウイルスのPCR 検査体制も不十分で、診療可能な病状(入院可能)も限られているため、3 者間・県・市・医師会での綿密な関係構築や情報共有が必要と考える。
- すでに往診している患者のマネジメントを保健所でするときは、電話やFAX、e-mail 何でもよいので相談して欲しい。
- 【その他の意見】
- 時間的、空間的に通常診療と分けて予約で診ることになっているが、症状があっていきなり電話なしで来院する患者さんが一定数おり困っている。
- 一般外来患者とコロナ患者を明確に隔離する導線が確保できない為、基本、対面診療は困難(駐車場内でかろうじて対面診療はできる)。
- 保健所が大変であれば、軽症患者は診療所主体でフォローするしかないようにも感じている。
- かかりつけ患者は主に24 時間対応の在宅患者。要相談の上、可能な場合はその他の方でも対応する。病状の変化がある時は早急に入院可能であることが必要だと思う。また治療に必要な薬剤をすぐに渡して頂くことが大事。