エネルギー価格高騰、食材料費の値上げによる医療機関緊急影響調査
昨年比較で電気使用量は変わらずも今年の電気料金は4割上昇、医療機関の経営圧迫
食材料費の値上げは患者入院食に影響
昨年秋以降、エネルギー価格や物価の高騰に歯止めのかからない状況が続いています。
上昇した価格への対応として、一般的には‟価格転嫁”が考えられますが、医療においてはその価格を医療費(患者側)に転嫁することは出来ません。医療サービスの価格は「公定価格」として、厚生労働大臣により定められるものです。日本全国共通であり、同じ医療サービス(診療)に対しては、い
つでも・どこでも・だれでも、同じ価格でなければなりません(※医療サービスの価格は『診療報酬』と呼ばれ、2年に一度、公定価格が改定されます)。その結果、医療機関は今回のエネルギー価格や食材料費高騰分のあおりを直接受けています。
コロナ禍の中、医療機関では患者の体調管理を考慮し、今夏も十分な換気と同時に室温管理の徹底が求められました。発熱外来ではガウンの着用など、熱中症の危険を回避する必要もありました。『節電』だけでは乗り切れない状況です。
当会では自治体に交付される、「電気・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」の医療機関向け活用を求めるため、医療機関におけるエネルギー価格高騰や食材料費値上げの実態を把握すべく緊急調査を実施致しました。
以下、調査結果を報告致します。
【調査方法】
実施期間: 2022年 9月 28日(水)~ 10月 7日(金)
実施方法: 当会に所属する会員医療機関宛にFAXで調査用紙を送信。
※FAX送信数:1,578医療機関に送信。
回 答 数: 207 件回答(13.1%)
【調査結果】
(A):医療機関区分
診療所 | 153 |
有床診療所 | 18 |
病院 | 37 |
(B):今年8月に請求された電力料について(※回答医療機関の平均値)
請求金額(電力料金) | 使用量 | |
---|---|---|
診療所 | 152,447 円 | 4,933 kWh |
有床診療所 | 601,812 円 | 23,789 kWh |
病院 | 4,483,004 円 | 168,095 kWh |
(C):昨年8月に請求された電力料について(※回答医療機関の平均値)
請求金額(電力料金) | 使用量 | |
---|---|---|
診療所 | 115,062 円 | 4,918 kWh |
有床診療所 | 419,146 円 | 25,887 kWh |
病院 | 3,070,027 円 | 168,457 kWh |
(D):今年8月と昨年8月に請求された電力料比較(※対前年同月比)
対前年同月比(電力料金) | 増減割合 | 対前年同月比(使用量) | 増減割合 | |
---|---|---|---|---|
診療所 | + 37,385 円 | + 32.5 % | + 15 kWh | + 0.3 % |
有床診療所 | + 182,666 円 | + 43.6 % | - 2,098 kWh | - 8.1 % |
病院 | + 1,412,977 円 | + 46.0 % | - 362 kWh | - 0.2 % |
※ 電力料の比較(対前年同月比)をすると、2021年8月請求と2022年8月請求で使用量の大きな差はみられませんが、電力料金については各医療機関の契約形態も関係しますが、全体で約4 割の金額上昇がみられました。
電力料金は施設規模が大きくなる程、昨年と今年の差が大きく、一例として、規模の大きな病院では昨年より電力使用量を約2万kWh 減少させても電力料金が約400万円上昇したところもありました。

(E):節電対策
照明の間引き | こまめな消灯 | 照明のLED 変更 | 空調温度を 高めに設定 | 不在エリアの 空調を止める | ブラインド等で 窓の日差しをさえぎる | コンセントを抜く等の 待機電力停止 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
診療所 | 28.1% | 67.3% | 37.3% | 37.9% | 52.9% | 56.9% | 22.9% |
有床診療所 | 50.0% | 77.7% | 50.0% | 38.9% | 66.7% | 50.0% | 16.7% |
病院 | 48.6% | 73.0% | 54.1% | 27.0% | 75.7% | 43.2% | 10.8% |

※全ての医療機関で節電対策を心がけており、「こまめな消灯」や「不在エリアの空調停止」など可能な範囲での節電が行われています。
節電対策の中では、「空調温度を高めに設定」している割合が低い結果となりました。これは外来患者・入院患者の体調管理や発熱外来等での熱中症対策が大きく影響しているものと考えられます。
(F):エネルギー高騰に対する医療機関の意見
- 実は今回、昨年の電気代とはっきりと比べたのが初めてであったが、予想外の値上がりにびっくりした。
- 今回の調査により改めて見直して驚きました。高騰するものばかりですが、保険点数は同じなのでかなり響きます。
- 普段より節電には気を配っているのでそれほど影響は無いと思っていたが、昨年より使用量は減っているのに請求金額がはね上がっている事に驚いた。
- 消費税も高いし、光熱費も上昇する一方。しかし患者数はコロナで減少し、診療費(収入)は上がらない。経費削減もままならないという状況でしょう(どこの医療機関でも)。
- 抗原検査のキットが30℃以下での保管が必要と、今年からスタッフの不在の夜間帯もエアコンをかけて室温を管理するようになった。
- 電気料金は12%UP。冬には石油ストーブを5ケ所でつけて、窓を開放するのでこれも心配です。
- コロナ感染対策の為、室内の換気が必要ですし、感染防止にもなります。冷房(今後の暖房)はエネルギーの無駄使いしかありませんが、必要不可欠です。院内を一定の温度にする為、患者様の負担を少しでも少なくする為ですが、この価格高騰は厳しいです。
- 新電力から東電に変更し電気料金が上がりました。透析施設なので一般のクリニックに比べ使用量は多いです。
- 電気料は2021 年度比で154,000 千円/年の値上げになる。
- 電気、ガス等の高騰に加え、円安や資源商品価格の上昇と半導体不足の影響を同時に受けており、さらなる利益率の悪化を懸念している。
- 8 月は電気使用量が前年同月比△8%減だったが、電気料金は前年同月比+51.9%。経費の中では、電気料金含む水道光熱費の伸びが著しい。この部分にダイレクトな補助金があればと思います。冬季はどこまで上がるか、燃料調整費はまだまだ上がっていますので・・・。
- 入院、入所施設では節電対策には限界がある。
- 負担増の分を診療報酬で手当てして欲しい。
- 電気料金は12 月から従来の割引契約がなくなるので、更に値上げとなってしまう。病院は価格転嫁できず非常に苦しい。
- 数年前から電気会社の変更やLED への変更、節電を努めるも約1.5 倍近くに上がる一方。コロナ下の患者数減に加えて、診療報酬は変わらず薬品物品への消費税など負担ばかり増えています。アウトソーシングしている白衣、リネン等のクリーニングなども。電気会社を変更したくても、現在は受け入れてもらえず、対策を立てることができません。
- 国からの支援も1 回きりでなく、継続的にお願いしたい。
- 急激な高騰により、前年と比べ1.5~2.0 倍となっており、光熱水費については、何らかの支援をいただきたいところです。その他衛生材料も納入価が高騰しており、経営悪化が危ぶまれます。
- これまでの自助努力(節電対策)では限界にきています。国の支援を是非ともお願い致します。
- 電気料金をはじめとする光熱水費の高騰は経営を圧迫している。支援金などの支援策を希望したい。
- 電気料金等の高騰による補助金要望する。
(G):入院食・食材量費への影響について(病院・有床診療所)
- 業務委託先から委託料金の値上げを通告された。
- 委託しています。値上げはしていません。
- 値上がりがあるが、仕方ないのでそのまま。
- 委託業者より契約単価見直し(5~20 円/@アップ)の要望あり。交渉中
- 食材費高騰を受け、2022.4 の価格改定に加え、2022.10 から2 回目の改定あり。結果前年同月比で13.2%の委託費up となる見込み。
- 宅食サービスなどでは1 食につき10 円の値上げになっており、今後に不安をもっている。
- 現在のところ影響はない(値段据え置き)。しかし今後値上げがあれば、取引先を変更するなど(最も安いところに)対策が考えられる。
- 入院食については業者委託。現在の所、値上げの要望はない。
- 食材の価格は上がっているが、なるべく質を下げないよう予算内でやりくりしている。
- 毎月、月々130 千円位高くなっている。
- 2023 年1 月より食材費の値上げ、323 千円/月(影響額)。
- 食材費も物価高騰の影響により、前年対比120~130%となっています。
- 魚類の値上がりがあり、仕入先の変更も行っています。肉類については、4 月頃から値上りがみられ、8 月にはさらに約200 円/㎏の値上がりがあった。加工品やデザート類も10~100 円/袋値上げがみられた。
- 相次ぐ食材料費の値上げにより、入院食の4 月~8 月の食材料費は昨年度に比べ患者1 人当たり18 円値上がりしています。一般入院患者の食材料費相当額としての自己負担額260 円を79 円上回っており病院の負担が増しています。
- 食材のみの単価計算でR2 年8 月806 円、R3 年8 月826 円、R4 年8 月888 円となり、R4 年8 月はR2 年の10.2%増、R3 年の7.5%増となっている。
- 入院食では栄養のバランスや質を考えた献立を立てているが、食材料の値上げにより価格上使用できない食材料もでてきており、献立の変更を余儀なくされている。
- 納入業者より平均3%程度の値上げ依頼が来ており、当院の食材使用が年間7,000 万円なので、今後は200 万円程度仕入額が上がると思われます。
- 食材費が高騰しているが、サービス維持のため依然と変更はない。
- 食料品価格等の物価高騰により献立変更の検討が今まで以上に必要になった。又、栄養補助食品などの付加食品なども期間単位での提供としているため、給食満足度向上に対して難しい状況である。
- 値上がりする商品が増え、冷凍に変えたり、使用頻度の高いものを大容量に変更等していますが、昨年の8 月頃から約8%材料費が上がりました。
- 昨年は当院の職員が調理を行っていたが高齢でやめ、フタッフの確保困難で本年は業者を入れておりコストはかなり増えた。
※入院食について業者に委託している医療機関も多く、その委託業者が値上げに踏み切ったケースも多々見受けられます。また、院内で調理しているケースであっても、献立の変更など値上げ対策を行っていますが、食材料費の値上げにより、規模の大きな病院では月間で200 万円の材料費値上げとなるところも出ています。
入院時食事代も患者の標準負担額が定められており、値上げ分は医療機関の負担となります。食材料費の値上げも医療機関の経営を圧迫しています。