【ベースアップ評価料】医療機関での届出・算定に関する緊急状況調査結果
2024年度の診療報酬改定では、医療機関職員の賃上げに係る評価として「ベースアップ評価料」が新設された。
医療機関職員の賃上げは重要だが、本点数を算定するまでには賃上げ計画・労使交渉・就業規則等の改定、更には、届出のための煩雑な書類作成・実績報告と、非常に制約の多い内容となっている。また、本点数算定時には、明細書に「ベースアップ評価料」と記載されるため、このことによる患者説明対応等も懸念されるところだ。
保険医協会では会員医療機関を対象に本点数の届出・算定に関する動向調査を行った。以下、調査結果を公表する。
【調査方法】
実施期間: 2023年 11月24日(金) ~ 2024年 1月 10日(水)
実施方法: 茨城県会員医療機関にFAX で調査票を送付
送付数 : 1,572 件
回答数 : 332 件(回答率21.1%) ※回答施設内訳(医科診療所:228、歯科診療所:68、病院:36)
【調査結果】
問1 回答医療機関の施設区分
医科診療所 | 129 / 212(60.9%) |
歯科診療所 | 62 / 212(29.2%) |
有床診療所 | 10 / 212(4.7%) |
病院 | 11 / 212(5.2%) |
問2 ベースアップ評価料の届出を行うか?
医科診届出する、またはその予定 | 61 / 212(28.8%) |
しばらく様子をみる | 83 / 212(39.1%) |
届出しない、またはその予定 | 68 / 212(32.1%) |
- 届出に関して、「様子をみる」、「届出しない」という診療所が多い傾向にある。この間、協会への相談でも、届出の実務対応が煩雑で、対応が難しいという声が多数寄せられている。なお、回答数は少ないが、病院においては、回答した11件中10件が「届出する」としている。
問3 問2で「しばらく様子をみる」と回答した理由(複数回答:83医療機関の回答)
届出を行うための実務が煩雑で、早急な対応は難しい | 71 / 231(30.7%) |
他医療機関の動向をみて検討したい | 57 / 231(24.7%) |
疑義解釈等、今後の追加情報を見極めて検討したい | 53 / 231(22.9%) |
診療報酬明細書に「ベースアップ評価料」と記載されることによる患者対応を懸念している | 50 / 231(21.7%) |
問4 問3で「届出しない、または届出しない予定」と回答した理由(複数回答:68医療機関の回答)
届出届出を行うための実務が煩雑で対応できない | 53 / 129(41.1%) |
次回改定での要件厳格化や点数自体の廃止を懸念している | 21 / 129(16.3%) |
診療報酬明細書に「ベースアップ評価料」と記載されることによる患者対応を懸念している | 32 / 129(24.8%) |
届出要件に該当しないため | 23 / 129(17.8%) |
【ベースアップ評価料に対する主なご意見】
- 職場のベースアップにつながらないと思われる。国の目的は何なのか?
- ベースアップは行うが、届出に伴う実務が多く当院では対応できない。
- そもそも人手不足で給与ベースアップ以上にあげないと定着しないのに意味がない。届出の事務作業が多すぎで勘弁してほしい。
- 手間がかかりすぎて多少の診療報酬上昇ではまかないきれないと思います。人件費を考えていただきたい。
- 職種により差別があるのは良くない。
- ベースアップ評価料を算定した場合、診療所によって窓口負担に差が生じるのは好ましくないと考えています。
- 手順がまだ分からないので、届出するかわからない。
- 各医院で初診・再診料が変わってくるので保険医療の本質(どの医院に行っても同じ金額)からずれているのではないだろうか。
- あまりにも場当たり的な考え方で納得できない。
- 届出等を行うのは事務員であるのに、ベースアップ評価料に事務員が含まれないことに納得がいかない。事務員から不満の声が出ている。
- 手続きが専門的すぎるので、診療をしながらの届出が難しいと考えています。良い方策があれば教えて頂きたいところです。
- 何を提出するか、具体的な事がわからない。計算の方法や書類の書き方さえ具体的なことが不明なので、届出そのものを提出できない。1回でなく来年もどのような書類があるのか不明なので今の所、様子をみるしかない。
- 報告等の内容も複雑。報告頻度多く困難。
- 届出を行うための申請書が複雑。対象職員から事務員を除く事には納得しかねる。クリニックなど受付等人数の多い所はベースアップ評価料1だけではまかなえない。
- 当院は評価料(Ⅰ)を算定する予定ですが、提出書類も多くよくわかりません。一人ではとても届出資料を提出できないです。事務職が別立てになっているため、不公平感が強いです。
- 小さな診療所でスタッフをなんとかやりくりして毎日の仕事をまわしています。その為、スタッフは兼務しています。ベースアップ評価料の中に事務が含まれていませんが、事務は大変不満と言っており、困っています。又、今回事務作業が複雑で難しく時間を要しています。
- 当院のような小規模(来院人数が少ない)の医療機関では、ベースアップ評価料の点数では全く点数アップにはならず、書類を出すのも労力の無駄にしかなりません。材料費は値上げラッシュにもかかわらず、そちらの点数は上がりません。スタッフの人件費は昇給しております。小手先の対応ではなく、真っ当な保険点数で対応して欲しい。ベースアップ評価料で点数が上がると社会が知れば(点数が低くても)バッシングを受けるのではないか?
- 施設の給与改定のために患者負担を増やすことは賛同できないが、インフレで日本社会全体の給与平均額が上がるのであればそこに転嫁するのは悪くないと言える。
- 普段の診療報酬改定であれば院長と事務員とで改定内容をチェックするが、今回は職員の具体的な賃金金額を扱う。検討内容がセンシティブである。当診療所は一人医師の小規模診療所であり、具体的な給与金額はオープンにして検討出来ない。小規模診療所への負担は非常に大きい。当診療所は職員昇給を行うことにやぶさかではない。とにかく余計な事務的負担を減らしてほしい。これ以上医療機関に「ブルシットジョブ」を行わせないで欲しい。
- 複雑すぎる。2年後の補償はない。
- 普段から社労士に依頼していないので、煩雑な書類はとても困る。この上、社労士の報酬まで支払うとなるとさらに診療所の収益が減る。