― 県内75%の医療機関が対応に苦慮―
来年4月、医療機関には「オンライン資格確認(※以下、オン資確認)」が原則義務化されます。オン資確認は、健康保険証の資格確認がオンラインで可能となる仕組みです。国は当初、オン資確認は医療機関の『任意』で行うとしていましたが、今年8月の中医協総会で来年4月の義務化を急遽答申し、9月5日、その内容を含んだ療養担当規則が発令されました。 現在、オン資確認の導入状況は、県内では2~3割程度です。導入までには機器(顔認証付きカードリーダー)の申請・納入、業者(ベンダー)との契約・改修工事が必要ですが、世界的な半導体不足により未だ機器の納入には一定の時間を要し、また、納入後の改修工事も業者待ちの状態です。 現在、オン資確認システムをまだ導入していない県内約7割の医療機関が順次導入を進めたとしても、来年4月に対象医療機関が全て導入を終えることは不可能に近い状態です。また、現在コロナ禍にあり、患者対応に追われる中での急な義務化に多くの医療機関が困惑しています。 オン資確認はサイバーセキュリティの面でも不安を抱えています。昨今、ランサムウェアによる被害報告が増加していますが、患者情報を取り扱う医療機関でサイバー攻撃を受けた時の影響は計り知れません。特に診療所ではその対策もままならない状況です。また、通信システムの障害も懸念され ており、システム障害が起きればマイナ保険証による患者資格確認は出来なくなるものと考えられます。医療機関は毎月、診療報酬請求明細書(レセプト)の請求を行いますが、オンライン上での通信障害が今年に入り数回発生しています。 8月24日に行われた「三師会・厚生労働省合同開催オンライン資格確認の原則義務化に向けた医療機関・薬局向けオンライン説明会」では、厚生労働省保険局・医療介護連携政策課長の水谷氏が「来年4月までに対応しない場合、保険医療機関の指定取消事由となり得る」と述べています。現在、県内約7割の医療機関がオン資確認システム未導入の状況であり、来年4月に医療機関の指定取消を行えば、コロナ禍での医療が成り立たない地域がでることも想定されます。 オン資確認は患者情報をオンラインで取り扱う制度です。国が主導し導入を急ぎ進めるのであれば、その結果を検証する第三者機関が必要です。「導入したら終わり」ではなく、安全・有効に活用される制度を目指すべきです。少なくとも現状では、その域に達していません。
茨城県保険医協会では、このような状況から来年4 月のオン資確認システム導入原則義務化に関して、会員医療機関の現状を調査するアンケートを実施しました。 アンケートでは、来年4 月のオン資確認システム導入に関して、「反対、性急すぎる」「反対、任意でよい」と回答した会員医療機関が75%に上りました。現在のシステム導入状況については、システムが稼働している会員医療機関は約20%。厚生労働省(社会保険審議会医療保険部会)資料では、9月末に約11.5 万件の導入目標でしたが、現在7 万件に満たない導入状況です。 一方、オン資確認を行うためには、原則的に健康保険証とマイナンバーカードを紐付けした、マイナ保険証が必要になります。9月15日時点でマイナンバーカード自体の交付率は48.2%であり、今後、国民が医療機関で活用することになるであろう「マイナ保険証」の普及も進んでいません。茨城県内では、オン資確認システムを導入している医療機関にマイナ保険証を持参する患者は殆どいない状況です。国はオン資確認システム導入の先に、健康保険証の廃止(マイナ保険証による受診)を予定しています。そこには、高齢者のマイナ保険証申請・活用といった課題、大規模通信障害発生時の対応など、未解決の問題があります。 以下、アンケート調査の結果を報告致します。
実施期間: 2022年 8月 30日(火)~ 9月 20日(月) 実施方法: 当会に所属する会員医療機関宛にFAXで調査用紙を送信。 ※FAX送信数:1,850医療機関に送信。 回 答 数: 363 件回答(19.6%)
手書き レセコンで紙 電子媒体 オンライン 医科診療所 1 7 52 162 歯科診療所 12 5 63 30 病院 0 1 2 22
① これから検討する。現時点ではわからない。 ② オンライン資格確認の導入を検討していない。導入する予定はない。 ③ カードリーダーを申し込んでいないが、導入を検討中。12月までに申込む予定。 ④ カードリーダーを申し込んだ。 ⑤ オンライン資格確認等システムの導入作業が完了しているが、運用はしていない。 ⑥ オンライン資格確認等システムを運用している(運用開始日を登録済み含む)➞(問4 へ)
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 医科診療所 39 18 15 91 14 42 歯科診療所 27 20 12 19 6 25 病院 0 0 5 12 1 7
あった なかった 医科診療所 12 29 歯科診療所 4 21 病院 1 6
① 患者とのトラブル(マイナンバーカードの保険証化をしていない、など) ② データ上トラブル(登録時データと不一致でエラー。基金等の登録データ不備・更新遅れ、など) ③ 機器関連のトラブル(顔認証ができない、など) ④ 業者とのトラブル(対応が遅い、説明が不親切でよくわからない、など) ⑤ その他
① ② ③ ④ ⑤ 医科診療所 2 9 2 1 0 歯科診療所 0 4 1 0 0 病院 0 1 0 0 0
保険証とオンライン資格データ不一致により、確認作業に時間を要し、患者を待たせることがある。 オンライン資格確認システムとレセコンとの連動がうまくいかない時が多く、業者を呼んで対応。 認証エラーがおきる。 保険証でも確認できるはずが疑資格と表示され、その都度、保険者に確認をとらなければならない。 保険証を持参したので認証したが、「該当者なし」と表示された。保険組合に問い合わせしたところ資格に問題はなかった(複数あり)。 暗唱番号忘れ。機器接続のトラブルなど。 正しい保険証なのに「該当者なし」と出る。 保険証登録の時間的遅れ。 回線ミスのため、カードリーダーが修理してもすぐにストップしてしまう。(3 回目の修理で回線ミスに気づく)。 改修工事の不備。
知っている 詳しくは知らない 全く知らない 医科診療所 128 63 30 歯科診療所 53 44 12 病院 18 7 0
知っている 詳しくは知らない 全く知らない 医科診療所 118 73 30 歯科診療所 50 43 16 病院 15 10 0
賛成 反対 4月は性急すぎる 反対 任意でよい どちらともいえない 医科診療所 18 65 100 39 歯科診療所 4 22 68 17 病院 3 4 11 7
① 必要性を感じていない。 ② 窓口の事務負担増(患者への利用案内・支援など) ③ セキュリティ面の不安(サイバー攻撃による情報漏えいなど) ④ マイナンバーカード紛失やマイナンバー漏えいなどの心配 ⑤ 設備投資やランニングコスト上の負担(オンライン請求回線、レセコン、電子カルテ等) ⑥ デジタル化に対応していく院内体制
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 医科診療所 93 122 128 134 125 53 歯科診療所 63 49 64 58 67 26 病院 10 17 13 13 14 7
訪問診療中心で需要がない。 新規導入機器への取扱い方法、メンテナンス、管理事務の負担。 地域性か、導入したが使用者がいない。 メリットがはっきりしない政策に補助金(税金)を使うのは納得できない。 患者側の認容性。 カードリーダーやPC の設置場所。 定期的にリーダーの買い替えコストがかかる。 保険証が有効かどうか確認できるのは便利だが、保険証が変更になってもすぐに反映されないので、保険証廃止は夢のまた夢だと思います。 農村地区、高齢者が多く、保険証切り替え時でもわからず大変。 コロナ流行時、どのように患者さんに対応すればよいか。 高齢者はマイナンバーカードを持っていない、もしくはカード自体を知らない。 現在70 歳でこれから設備投資しても何年続けられるか疑問。 オンラインを早くすべての医療機関で実施すべき。
賛成 反対 どちらともいえない 医科診療所 20 126 74 歯科診療所 5 68 34 病院 3 9 13
【自由意見】
患者さん、医療機関、共にメリットを全く感じられません。 高齢者はリーダーの処理や操作は出来ません! 老人の患者さんが多く、患者さんが対応できるのか? 当院は高齢者(独居の方もいらっしゃいます)の患者様が多く、従来の保険証を提示して頂くのも困難な方や保険証の返却後に返却してもらっていい等、訴えられる方も複数いらっしゃいます。諸事情により「マイナ保険証」についての理解や手続き等、大変難しい事が予想されます。設備投資やランニングコストに関しても懸念しております。 8/24 のオンライン説明(Web)を視聴したが強制的な口調で導入せざるを得ないと思いました。独裁政治になっていくように感じています。 現場の意見も聞かず、義務化するのは言語道断。コロナ禍でコスト面、運用面とも医療現場に更なる大きな負担をかけていることは明白。国のデジタル化遅れのツケを末端に押し付ける愚策である。せめて、保守費用も出すべきである。 いきなりの原則義務化というのは全く納得できない。5 月までは任意であったのに十分な説明もされないまま、来年の3 月までに導入を行えというのは全く無理な話である。もっと時間をかけて我々開業医に十分説明し、導入していく方向で考えていただきたい(政府はなぜこのような早急な導入を考えているのか、我々開業医に十分説明すべきである)。 義務化するなら、初めからそのように提示すべき。途中から急に義務と言うのは迷走しているとしか思えない。現場に混乱を招くのみ。 高齢の医療従事者にシステム導入は困難。資金面とともにむずかしく廃業を考える医師もいるのではないか。医療資源の損失につながる怖れあり。 デジタル化の方向性は理解できる。義務化は反対。デジタル難民(医師、患者)への配慮が必要。政府主導で現場の人達の意見を聞いていない。 来年春の導入は間に合わず、うまくいかないと思う。 カードリーダーの申し込みもかなり前にできていますが、電子カルテ側の技術者が少ないため、ずっと待ちの状態です。もう半年も待っています。どうにかなりませんか?カードリーダー本体ももうきている段階です。 オンライン資格確認システム導入したものの、通信の不具合が何ヶ月も解決せず、運用できていません。(業者に相談してもなおらない)義務化されても困ります。 公的機関からの説明会を頻回に行ってほしい! オンライン資格確認の導入、運用についてはコロナ禍がすぎさってwith コロナになってからにすべき。コロナ対応しつつ、オンライン資格確認導入など、マンパワー的に不可能。又、機器交換、ランニングコスト増に対して、オンライン資格導入した場合、加算や協力金をもっと支払うべき。そうでなければクリニックは対応できない。 現時点においては利便性より懸念材料の方が多い。当院は高齢の患者さんが多いせいか、周知度も低い印象をうける。ただ、これから先のことを考えた場合、デジタル化した方がいいと思うし、やるのならば一斉にやったほうがいいと思う マル福等の公費も取り込めるようにしてほしい。 透析患者は保険証以外にマル福や手帳を持っている。その情報がマイナンバーカードや保険証に入らなければ意味がないと思う。 欧米と異なり、ハッキングに極めて脆弱なこの国のサイバーセキュリティの状況も不安で責任の所在(情報漏洩の際)も示されていない。 原則的には今後進む方向と思うが、セキュリティの問題、システムの使い勝手が悪いなど不安がいっぱい。 日本はコロナ禍ではデジタル化が遅かった為に、台湾などとは対応の差が出たように感じた。ハーシスの入力もマイナンバー登録が国民全員になされていたら、Dr が(又はNs が)長時間残業の上、住所や生年月日等を入力不用だったのではないか。外国人による保険証の不正使用も防ぐことができるのなら、マイナンバーと保険証が一体化するメリットはあると思う。 他業界をみればオンライン化は当たり前な上、検査や処方の重複による無駄も多い現状を改善する策だと思います。現状維持を求める不満や反発はあるのが当然なので、政府がしっかりイニシアチブとり、そして万が一の際には責任を取る覚悟で、もっと積極的に推進していく必要があると思います。 オンライン資格確認は大変快適に使わせていただいています。保険証が変わったばかりの人とかは、すぐにシステムに反映されず「該当患者なし」となるものもありますが、簡単な入力ミスはほとんどなくなります。問題はパソコンの一連の操作を覚えられるか、覚えられないか。古いスタッフさんからは反発があるでしょうね。
システム導入費用に関する意見
予想以上に病院の負担が大きい。 コロナで収入減の医療機関も多く、資金面で導入は負担となる。 オンライン資格確認の維持費用や、おそらく5 年毎に必要な更新費用も医療機関に負担させるのは納得できない。オンライン請求と全く異なり、更新維持費用が大きすぎるので、任意にすべきで、義務化するなら、更新維持費用も国が負担すべき。 オンライン資格確認端末の費用だけでなくネットワーク等についての費用が追加になる。しかし、それについての補助もなく、各医療機関の人的負担や経営負担が増大しているなかでの義務化は本当に医療をさらに追い込むこととなる。 初期投資費用と補助金額の乖離をどう考えているのか。歯科系レセコン会社は月2,000 円程度のコストで運用可能となっている様ですが、医系との違いは何なのですか。